パリに暮らすロマ

2019年8月31日

はじめに

ロマってご存じですか?ジプシーといったらイメージできる人が多いと思いますが、日本にいたらあまり出会う機会が少ない人たちだと思います。

私もパリに来るまではロマの存在を知りませんでした。実際、パリで生活する中で、スリなどの軽犯罪を行っているのはほとんどが彼らによる犯行だと知りました。もちろん、中には犯罪に手を染めずちゃんと仕事に就いて生活をしている人もいますが、一部の多くのロマがパリに限らず、ヨーロッパ各地で観光客(特に日本人)をターゲットにスリや窃盗などを行い、生計を立てています。

長い歴史の中で迫害や差別を受け続け、それが現在でも続いています。

ある国での迫害や差別が原因で、仕事に就くことができず(もしくは低資金)、お金がないので、観光客の集まるパリなどへ出稼ぎでやってきて、生きるためにしかたなく、物乞いやスリをしている人達もいます。

また一方で、ある一定の人達の背後にはルーマニアのマフィアがいて、物乞いやスリで稼いだお金をマフィアが徴収しているという一説もあります。この説はフランスでよく耳にします。

ここでは、ロマとはどういった人たちなのか?

これからパリへ旅行に来る方に知ってもらいたいパリに暮らすロマについてまとめました。

ロマってどういった人たち?

北インドを起源とし、長い年月をかけてヨーロッパ全土に移動してきた移動型民族です。

現在は主に東欧のルーマニアに多く暮らしています。フランスにもルーマニアからやって来るロマが大勢います。

そして、フランスでは彼らの多くが電気や水道、ガスの無い郊外の不法キャンプでとても貧しい暮らをしています。

そこは私たちが持っているフランスのイメージからは想像もできないような場所です。

ロマの外見的特徴

パリで見かけたロマの特徴を私なりにまとめてみました。

・浅黒い肌。(まれに白い肌の人もいる。)
・目はくっきり二重で彫りが深い。
・鼻が高い。
・髪の色は褐色から黒色。(子供は金髪の子もいる。)
・女性は長い髪を後ろに一つで結ぶか、三つ編みをしている。
・大人の女性はスカーフを頭に巻いている。
・女性は足首まで隠れるようなロングスカートを履いていることが多い。
 ただし、少女たちはズボンをはいていることが多い。
・物乞いをしている男性は裸足の人が多い。
・清潔感のない身なり。
・子どもたちはやせ型が多い。

パリの観光名所に行けば必ずといっていいほど彼らに遭遇します。こういった人たちが署名ボードを持っていたり、地下鉄をウロウロしていたら、スリ集団なので、見かけたら注意しましょう!

ロマの物乞い

パリの街を歩けば、物乞いをしている人たちを多く見かけます。日本では決して見られない光景です。

彼らはSDF(現地のホームレス)であったり、シリアからの難民であったり、失業中の若者だったり、ロマだったり、様々な人々が路上や地下鉄、車道脇、などの場所で様々な形で物乞いをしています。

ここでは、ロマの物乞いに焦点を当てたいと思います。

彼らは基本的に物腰が丁寧です。「ボンジュール、ムシュー、マダム」や「シル・ヴ・プレ」と弱々しい声で話しかけてきます。「小銭を持っていません。」などとちゃんと断れば「ボンヌ・ジュルネ(良い一日を)」と簡単なフランス語で返してくれる場合もあります。

決して、他人から無理やりお金を奪ったり、暴力を振るったりはしません。優しそうな人たちです。

彼らは物乞いのプロなので、どう振舞ったらお金がもらえるのか、どうしたらお金をもらえるのかを知っているのです。

彼らが一番大事にしていることは、いかに他人から見て可哀そうだと思われるかです。

耳にした話では、パリで一日に100ユーロ以上稼ぐ物乞いもいるそうです。私よりも稼いでいるじゃん!っと耳を疑ってしまいました。

私がパリでよく見かけるロマの物乞いは、病気やケガをした子供と一緒に路上に座り込んでいたり、若い女性が地べたに頭を付けていたり、寒い真冬でも裸足だったり、薄着だったり、ガリガリに痩せていたり、手足がなかったり...見ていて本当に心が痛む人たちばかりです。

しかし、例えば、病気やケガをした子供の治療費にと思ってお金を渡しても、だいたいの親は子どもを病院へは連れては行かないと思います。その理由は子どもの病気やケガが治ってしまったら、お金が稼げないからです。もちろん中にはちゃんと病院へ連れて行く親もいると思います。

寒いだろうと思って親切心からマフラーや手袋を渡したとしても、彼らの多くは物乞いをしている間は身に着けません。その理由は身に着けているものが多いほど、お金が稼げないからです。もちろん中にはちゃんと身に付ける人もいると思います。

また、手足がない人が一生懸命に地べたを這いずっている姿を見ると、心を締め付けられそうになりますが、彼らの背景にはマフィアの存在がある場合が多いんだそう。彼らはマフィアによって手足を切断され、マフィアの資金調達のために路上で物乞いとして働かされている可能性もあるのです。あくまで可能性ですが。(生まれつき手足がなかったという可能性もあります。)

夜になると車で迎えが来て彼らが帰っていく姿を見たという人もいます。確かに自分ひとりの力では電車やバス、タクシーに乗ることは出来ないので、背後にマフィアではなくとも誰かがいるのは事実だと思います。

こういった人たちを見ると、自然と可哀そうだなという同情心が沸き、お金をあげたくなる人もいると思いますが、実際、あげたお金は彼らが自由に使えるわけではなく、彼らには元締めがおり、マフィアの資金になっている可能性もあります。フランス人はマフィアが絡んでいる可能性を知っているので、ロマの物乞いにお金をあげる人は少ないようです。

私が学生だった頃、旅行でパリに来ていた時に、このような裏社会があるのを知らず、手足のない人や貧しそうな子供たちを見て、可哀そうだなと思い、お金をあげたことが何度かありました。

日本では路上で見ず知らずの人にお金をあげる習慣はないので、当時は、貧しい人にお金をあげたことに対して「海外で良いことしたなぁ」という満足感がありました。

いま思えば、単純な同情心からお金をあげてしまった自分の無知を反省しています。

マフィアとは関係なく、ルーマニアなどの国で迫害や差別を受け、仕事に就けず、家族や親族のために出稼ぎでパリへやってきて、個人で物乞いをしている貧しいロマもいると思いますが、自分のあげたお金がもしかしたらマフィアの犯罪資金や彼らの裕福な生活の一部に使われている可能性があると思うと恐ろしいですね。

フランス国民から嫌われる理由

「自由・平等・博愛」の精神を大切にしているフランス国民。迫害や差別はいけないと判っていながらも、多くのフランス国民がロマに対して嫌悪感を抱いています。その主な理由は以下の通りです。

・治安を悪化させている。
・子どもたちに教育を与えず、犯罪や物乞いに利用している。
 (フランスではどんなに貧しくても、手続きさえすれば、無料で学校に行かせられます。)
・フランスの文化に馴染もうとせず、フランス語も学ぼうとしない。
・マフィアと関係がある。

フランス政府のロマに対する取り組み

フランス社会ではロマの存在が社会問題にまで発展しています。国内の治安悪化や国民からの不満を受け、これまでに政府はロマに対する様々な政策をとってきました。

サルコジ政権では彼らに帰国費用を渡してルーマニアなどの国へ自主退去を促したり、2010年には、不法移民取り締まり法を適用し、不法キャンプの強制撤去や数百人のロマをルーマニアやブルガリアへ強制送還する措置を行いました。これには欧州連合から迫害だとの批判もあったみたいです。

また、2011年からはパリにルーマニアの警察官が派遣されています。

目的はロマとフランスの警察官との間にある言葉の壁をなくすためです。

彼らはフランスの警察官と比べて、少し大きめの帽子を被り、色の濃い制服を着ています。観光客の多い夏や年末年始の期間に、フランスの警察官と一緒に観光地をパトロールして、ロマによる軽犯罪(スリ、署名詐欺、物乞いなど)の取り締まりを強化しています。

私も実際にエッフェル塔の近くでロマに職務質問をしているルーマニアの警察官をみたことがあります。

ルーマニアの警察官が他国でパトロールをする取り組みは世界でもパリが初めてだそうです。

さいごに

貧困の連鎖や闇組織の拡大を食い止めるために、世界から迫害や差別がなくなることを願うばかりです。

旅行などで海外に来る際は、観光を楽しむのはもちろん!ですが、その国の社会問題に目を向けることも大切なことなんだなと感じます。